大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和46年(行ウ)20号 判決 1978年9月22日

原告 岸チヨ ほか三名

被告 神戸税務署長

代理人 高須要子 浅田安治 ほか五名

主文

原告らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

一  原告らの昭和四一年分の所得税について、被告が昭和四三年一二月一〇日付でした。

(イ) 原告岸チヨについては、所得金額を金一、四一九万七、一二二円、所得税額を金六六五万六、〇〇〇円(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後の額)とした更正処分のうち、所得金額について金五七七万九、九三〇円、所得税額について金一九一万九、七五〇円を超える部分および過少申告加算税を金一〇万七、二〇〇円とした賦課決定処分

(ロ) 原告岸和子については、所得金額を金四七六万四、二九六円、所得税額を金二二二万〇、五〇〇円とした更正処分のうち、所得金額について金二七五万七、九九六円、所得税額について金六四万九、四三〇円を超える部分および過少申告加算税を金一万五、八〇〇円とした賦課決定処分

(ハ) 原告岸美代子については、所得金額を金五四〇万七、二九一円、所得税額を金二一一万五、二〇〇円とした更正処分のうち、所得金額について金二七五万七、九九六円、所得税額について金五五万六、二七〇円を超える部分および過少申告加算税を金一万七、〇〇〇円とした賦課決定処分

(ニ) 原告岸三郎については、所得金額を金四五三万〇、六一三円、所得税額を金一七八万三、四〇〇円とした更正処分のうち、所得金額について金一六六万四、八一〇円、所得税額について金二九万四、三六〇円を超える部分および過少申告加算税を金一万六、三〇〇円とした賦課決定処分

を、いずれも取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  原告らは、昭和四二年三月一五日、被告に対し、原告らの昭和四一年分の所得税について、

(イ) 原告岸チヨについては、所得金額を金五七七万九、九三〇円、所得税額を金一九一万九、七五〇円

(ロ) 原告岸和子については、所得金額を金二七五万七、九九六円、所得税額を金六四万九、四三〇円

(ハ) 原告岸美代子については、所得金額を金二七五万七、九九六円、所得税額を金五五万六、二七〇円

(ニ) 原告岸三郎については、所得金額を金一六六万四、八一〇円、所得税額を金二九万四、三六〇円

として、それぞれ確定申告したところ、被告が昭和四三年一二月一〇日付で

(イ) 原告岸チヨについては、所得金額を金一、七〇八万〇、二〇三円、所得税額を金八二四万七、六九六円とした更正処分および過少申告加算税を金一〇万七、二〇〇円、重加算税を金一二五万二、八〇〇円とした賦課決定処分

(ロ) 原告岸和子については、所得金額を金四七六万四、二九六円、所得税額を金二二二万〇、五〇〇円とした更正処分および過少申告加算税を金一万五、八〇〇円、重加算税を金三七万五、九〇〇円とした賦課決定処分

(ハ) 原告岸美代子については、所得金額を金五四〇万七、二九一円、所得税額を金二一一万五、二〇〇円とした更正処分および過少申告加算税を金一万七、〇〇〇円、重加算税を金三六万五、一〇〇円とした賦課決定処分

(ニ) 原告岸三郎については、所得金額を金四五三万〇、六一三円、所得税額を金一七八万三、四〇〇円とした更正処分および過少申告加算税を金一万六、三〇〇円、重加算税を金三四万八、六〇〇円とした賦課決定処分

をし、そのころ原告らに通知したので、これを不服として、昭和四四年一月一一日、被告に対し異議申立てをしたが、同年四月四日、被告が右異議申立てを棄却する旨の決定をしたので、同年五月五日、大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四六年三月一七日、大阪国税不服審判所長は、

(イ) 原告岸チヨについては、更正処分のうち、所得金額について金一、四一九万七、一二二円、所得税額について金六六五万六、〇〇〇円を超える部分および重加算税の賦課決定処分

(ロ) 原告岸和子、同岸美代子、同岸三郎については、それぞれ重加算税の賦課決定処分

を取り消したけれども、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月二四日、その裁決書は、それぞれ原告らに送達された。

二  しかしながら、原告らの昭和四一年分の所得金額は申告額を超えることはないから、被告が原告らに対してなした前記各更正処分(ただし、原告岸チヨについては裁決により一部取り消された後の額)のうち、原告らの申告額を超える部分および各過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも違法であつて、これが取り消しを求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は否認する。

(被告の主張)

一  原告らおよび訴外山村幸子(以下訴外人という)は、神戸市生田区北長狭通一丁目二三番の土地ほか多数の土地家屋を共同もしくは単独で所有し(原告らおよび訴外人が昭和四一年一月一日現在において所有する土地家屋は別表一記載のとおりである。)、これらの土地家屋のうち、自己において使用するものを除き、その余の土地家屋を株式会社みどり美粧院ほか多数人に賃貸し、地代家賃等の収入を得ている者である。

二  原告らおよび訴外人の昭和四一年分における総所得金額の総額は次のとおりである。

総所得金額 金四、四七九万四、九五三円(左記(一)、(二)の合計額)

(一) 不動産所得金額 金四、四七七万六、七六九円

(二) 雑所得金額   金一万八、一八四円

三  右の各所得金額の計算内容は、別表二記載のとおりである。なお、「岸チヨ外四名」とは原告らおよび訴外人をいい、その持分は原告岸チヨ七分の三、その他が各七分の一であり、「岸チヨ外二名」とは原告らのうち原告岸チヨ、同岸和子、同岸美代子をいい、その持分は原告岸チヨ四分の二、その他が各四分の一である。

(一) 不動産所得について

不動産所得金額 金四、四七七万六、七六九円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金五、三〇九万八、六五六円(左記(1)ないし(3)の合計額)

(1) 地代収入 金一、五五三万五、五四〇円

A 岸チヨ外四名分 金一、一八三万五、六〇九円(左記(イ)、(ロ)、(ハ)の合計額)

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金九三五万四、七九四円(別表三の一)

(ロ) 株式会社寿本舗から一括収受した地代 金二〇〇万円

(ハ) 細谷清から一括収受した地代 金四八万〇、八一五円

B 岸チヨ外二名分 金二二七万六、一二八円

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金二二七万六、一二八円(別表三の一)

C 岸美代子分 金一四二万三、八〇三円

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金一四二万三、八〇三円(別表三の一)

(2) 家賃収入 金一、三四七万〇、三一六円

A 岸チヨ外四名分 金一、三四七万〇、三一六円(左記(イ)、(ロ)の合計額)

(イ) 神戸中央ビル(神戸市生田区多聞通二丁目二三)の貸室にかかる家賃および共益費収入

金一、一七六万一、四三六円(別表三の二)

(ロ) その他の貸家にかかる継続的家賃

金一七〇万八、八八〇円(別表三の三)

(3) 権利金等収入 金二、四〇九万二、八〇〇円

A 岸チヨ外四名分 金二、二〇九万二、八〇〇円(左記(イ)ないし(ニ)の合計額)

(イ) 株式会社みどり美粧院から収受した権利金

金七四九万二、八〇〇円

(ロ) 有限会社ムーンライトから収受した権利金

金九七〇万円

(ハ) 株式会社寿本舗から収受した承諾料

金四二〇万円

(ニ) 禹錫潤から収受した名義書替料

金七〇万円

B 岸チヨ外二名分 金二〇万円

(イ) 橋本一夫から収受した承諾料 金二〇万円

C 岸美代子分 金一八〇万円

(イ) 安藤年雄から収受した更新料 金一八〇万円

2 必要経費 金八三二万一、八八七円(左記(1)ないし(5)の合計額)

(1) 公租公課 金三二三万〇、三五〇円

A 岸チヨ外四名分(神戸中央ビル分を含む)

金二六一万六、七三〇円

B 岸チヨ外二名分 金三七万三、七三〇円

C 岸美代子分 金二三万九、八九〇円

(2) 神戸中央ビル経費(公租公課を除く)

金四一八万三、三二一円

A 岸チヨ外四名分 金四一八万三、三二一円

(3) 手数料 金七〇万五、八九二円

A 岸チヨ外四名分 金七〇万五、八九二円

(4) 減価償却費 金八万二、三二四円

A 岸チヨ外四名分 金八万二、三二四円

(5) 雑費 金一二万円

A 岸チヨ外四名分 金一二万円

(二) 雑所得について

雑所得金額 金一万八、一八四円(左記1から2を控除した額)

1 貸付金利息収入 金二一万八、一八四円

岸チヨ分 金二一万八、一八四円

2 必要経費 金二〇万円

岸チヨ分 金二〇万円

四  原告らおよび訴外人の各人別総所得金額について

前記不動産所得および雑所得について、原告らおよび訴外人の持分に応じて各人別総所得金額を算定すると、別表二記載のとおりである。すなわち、

(一) 原告岸チヨ分

総所得金額 金一、八〇七万九、五七五円(左記1、2の合計額)

1 不動産所得金額 金一、八〇六万一、三九一円(左記(1)から(2)を控除した額)

(1) 不動産収入 金二、一五五万一、八〇一円

(2) 必要経費 金三四九万〇、四一〇円

2 雑所得金額 金一万八、一八四円(左記(1)から(2)を控除した額)

(1) 貸付金利息収入 金二一万八、一八四円

(2) 必要経費 金二〇万円

(二) 原告岸和子分

総所得金額 金六一九万五、六六一円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金七三九万〇、二七七円

2 必要経費 金一一九万四、六一六円

(三) 原告岸美代子分

総所得金額 金九一七万九、五七四円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金一、〇六一万四、〇八〇円

2 必要経費 金一四三万四、五〇六円

(四) 原告岸三郎分

総所得金額 金五六七万〇、〇六二円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金六七七万一、二四五円

2 必要経費 金一一〇万一、一八三円

(五) 訴外人(山村幸子)分

総所得金額 金五六七万〇、〇六二円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金六七七万一、二四五円

2 必要経費 金一一〇万一、一八三円

したがつて、原告らの右各総所得金額の範囲内でした被告の本件各更正処分(原告岸チヨについては裁決によつて一部取り消された後の額)には、なんら違法はない。

(被告の主張に対する原告らの答弁および主張)

一  被告は、原告らの不動産所得の金額について、本訴に至つて更正処分、国税不服審判所の審理における主張を変更し、原告らにとつて不利益な額を主張しているが、これは課税理由の差し換えと考えられるから、かかる主張が許容されるか否か法律上疑問であるのみならず、被告の右主張は、更正処分の除斥期間経過後における理由の差し換えであつて、実質的には除斥期間経過後の課税を認めるのと異らないから、許されない。

二  被告の主張二のうち、(二)雑所得金額金一万八、一八四円は認めるが、その余は争う。

同三のうち、冒頭の「岸チヨ外四名」が原告らおよび訴外人であつて、その持分が原告岸チヨ七分の三、その他が各七分の一であり、「岸チヨ外二名」が原告らのうち原告岸チヨ、同岸和子、同岸美代子であつて、その持分が原告岸チヨ四分の二、その他が各四分の一であること、(一)1(1)(イ)の別表三の一のうち<1><2><3><5><8><9><10><11><13><14><15><18><19><20><21><24><25><26><27><32><33><35><36><40><41><42><43><45><47><48><49><53><54>、(一)1(2)(イ)の別表三の二のうち<2><24><25>以外の部分、(一)1(2)(ロ)、(一)2(1)ないし(5)、(二)は認めるが、その余は否認する。

(一)1(1)(イ)の別表三の一の<4>は金六、二三五円、6は金四二万七、一三七円、<7>は金一八万一、七五四円<12>は金一六万六、六二〇円、<16>は金八七万一、五〇〇円、<17>は金二七万九、三六〇円、<22>は金二四万〇、三六八円、<23>は金四五万五、四〇〇円、<28>は金三二万四、四八〇円、<29>は金二六万一、〇〇〇円、<30>は金二七万一、六二〇円、<31>は金二六万七、〇七五円、<34>は金一万二、六八四円、<37>は金二万五、一〇四円、<38>は金一万一、二四〇円、<39>は金一万二、六八四円、<44>は金一六万五、一二〇円、<46>は金一三万二、六三六円、<50>は金九万五、〇〇〇円、<51>は金七万二、九五四円、<52>は金九万〇、三九〇円であり、(一)1(2)(イ)の別表三の二の2は家賃金二八万円、共益費金四万九、〇〇〇円合計金三二万九、〇〇〇円である。また、(一)1(3)(イ)、(ロ)は権利金ではなく、敷金であつて、将来賃貸借契約が終了した際、賃借人に返還すべき性質のものである。

同四のうち、(一)2(1)、(2)は認めるが、その余は否認する。

三  必要経費について

原告らおよび訴外人(山村幸子)の昭和四一年分における不動産収入を得るために要した必要経費は、被告の主張する費目、金額に限定されるものではなく、原告岸チヨが金六九〇万六、二二七円、同岸和子が金二二九万六、六六二円、同岸美代子が金三〇六万七、七四七円、同岸三郎が金二一三万四、八二七円、訴外人が金二一三万四、三二七円合計金一、六五四万〇、二九〇円である。すなわち、被告が裁決の際に必要経費として是認した公租公課金二四三万六、七五六円、神戸中央ビル経費金四八六万六、四三三円、手数料金七〇万五、八九二円、減価償却費金八万二、三一四円、訴訟費用金八三二万八、八九五円、雑費金一二万円、合計金一、六五四万〇、二九〇円を原告らおよび訴外人の持分に応じて各人別に算定した金額である。

ところで、必要経費についての立証責任は課税庁である被告に存するものであるところ、被告は、本訴において、裁決の際に必要経費として是認した金額を大幅に減額して主張するのであるが、被告が裁決の際に必要経費として是認した金額は合理的根拠に基づく適正なものと解せざるを得ないから、本訴においても、右金額を必要経費として認めるべきである。

(原告らの主張に対する被告の反論)

一  いわゆる白色申告書により確定申告した原告らの所得について、被告がなした本件課税処分の取消請求訴訟の審理の対象は、客観的に存在した課税標準等または正当な税額等であつて、本件課税処分が実体上適法であるか否かは、当該課税処分が客観的に存在した課税標準等または正当な税額等の範囲内でなされたか否かにより決定されるものである。右課税標準等または正当な税額等を理由あらしめる主張、すなわち、実際の課税標準等または正当な税額等の認定根拠は、一般民事訴訟法の理論によつて、単なる攻撃防禦方法にすぎないから、時機に後れたものとして排斥されないかぎり、口頭弁論の終結に至るまで随時提出を妨げられるものではない。被告としては、本件課税処分の基礎となつた資料のほかに、新たに収集した資料をも加え、それらに基づいて、原処分当時あるいは国税不服審判所の審理の際なした主張を維持することはもちろん、新たな資料に基づいて従前の主張と別異の主張、立証をすることもなんら妨げられない。したがつて、本件訴訟における被告の主張をもつて、課税理由の差し換えであるから許容されないとする原告らの主張は理由がない。

また、本件訴訟における被告の主張は、あらためて客観的に存在した課税標準等または正当な税額等を具体的に確定し、その具体的な租税債務としての存在を前提として主張しているものではなく、単に被告が本件課税処分において認定し、計算した課税標準等または税額等が客観的に存在した課税標準等または正当な税額等を超えていないことを主張しているにすぎない。本訴における被告の主張事実が認められることによつて、本件課税処分により確定した課税標準等または税額等に変更をきたすものではなく、単に本件課税処分がそのままの内容で維持されるにすぎない。したがつて、本件訴訟における被告の主張をもつて実質的には除斥期間経過後の課税を認めるのと異らないとする原告らの主張も、また、理由がない。

二  必要経費について

被告が裁決の際に必要経費として是認した費目と金額が原告ら主張のとおりであることは認めるが、被告が本訴において主張する必要経費は、公租公課については、裁決の際の金額に「神戸中央ビル」の土地建物に対する各固定資産税および都市計画税の合計額金七九万三、五八四円(正しくは金七六万八、四七八円)を含めて算定した金額であり、神戸中央ビル経費については、裁決の際の金額から「神戸中央ビル」の土地建物に対する固定資産税(土地分金八万五、五四六円、建物分金五九万七、五六六円)合計金六八万三、一一二円を除外した金額であり、減価償却費については、裁決の際の金額に金一〇円を加えて違算を正したものであり、手数料、雑費については裁決の際の金額と同額である。しかし、被告が裁決の際に必要経費として是認した金額のうち、訴訟費用金八三二万八、八九五円は、その内訳は左記のとおりであるが、いずれも必要経費として認めることができない。すなわち、番号1、3、4、5、10については支払われた事実はなく、2、6ないし9については支払われた事実はあるが、2、6、7はいずれも浅岡産業株式会社に対する土地明渡しの強制執行費用として支払われたものであるところ、右は当該土地の利用価値を高めるために支出されたもので、資本的支出であるから、必要経費に算入できないし、8、9も家屋明渡しの費用として支払われたものであるところ、その支払時期は8が昭和四〇年一二月二八日、9が同月二九日であつて、原告らは右費用に対応する収入金額を計上していないから、必要経費に算入できないのである。

昭和年月日

支払先

金額(円)

1

41.1.10

河野春吉

200,000

2

〃 1.12

北山法律事務所

38,870

3

〃 2.26

同上

89,250

4

〃 2.28

河野春吉

51,000

5

〃 4.12

同上

200,000

6

〃 4.

同上

2,000,000

7

〃 4.

同上

850,000

8

〃 4.11

山崎ひろ子

500,000

9

〃 4.

大町衛

大町巴

1,400,000

10

〃 7.16

金子新一

3,000,000

合計

8,328,895

第三証拠関係 <略>

理由

請求原因一の事実は当事者間に争いがない。そこで本件各更正処分(ただし、原告岸チヨについては裁決により一部取り消された後の額)のうち、原告らの申告額を超える部分および本件各過少申告加算税賦課決定処分の適否について、以下判断する。

一  原告らは、被告が原告らの不動産所得の金額について、本訴に至つて更正処分、国税不服審判所の審理における主張を変更し、原告らにとつて不利益な額を主張しているが、これは課税理由の差し換えと考えられるから、かかる主張が許容されるか否か法律上疑問であるのみならず、被告の右主張は、更正処分の除斥期間経過後における理由の差し換えであつて、実質的には除斥期間経過後の課税を認めるのと異らないから許されないと主張する。しかし、原告らの右主張は、被告において反論するように、すべて理由がない。

二  そこで被告の主張する原告らおよび訴外人の昭和四一年分における総所得金額について検討する。

被告の主張一の事実は原告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなすべく、以下にいう「岸チヨ外四名」とは原告らおよび訴外人をいい、その持分は原告岸チヨ七分の三、その他が各七分の一であり、以下にいう「岸チヨ外二名」とは原告らのうち原告岸チヨ、同岸和子、同岸美代子をいい、その持分は原告岸チヨ四分の二、その他が各四分の一であることは当事者間に争いがないところ、原告らおよび訴外人の昭和四一年分における総所得金額の総額は、以下に認定するとおり、

総所得金額 金四、四七九万四、九五三円(左記(一)、(二)の合計額)

(一)  不動産所得金額 金四、四七七万六、七六九円

(二)  雑所得金額 金一万八、一八四円

であつて、右の各所得金額の計算内容は、別表二記載のとおりである。

(1)  不動産所得について

不動産所得金額 金四、四七七万六、七六九円(左記1から2を控除した額)

1 不動産収入 金五、三〇九万八、六五六円(左記(1)ないし(3)の合計額)

(1) 地代収入 金一、五五三万五、五四〇円

A 岸チヨ外四名分 金一、一八三万五、六〇九円(左記(イ)、(ロ)、(ハ)の合計額)

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金九三五万四、七九四円

別表三の一の<1>ないし<42>のうち、<1>ないし<3>、<5><8>ないし<11>、<13>ないし<15>、<18>ないし<21>、<24>ないし<27><32>、<33>、<35>、<36>、<40>ないし<42>は当事者間に争いがなく、<30>、<31>は原告らの自認額を下回るものであり、その余は証拠欄記載の証拠によつて認めることができるから、その土地貸付けにかかる継続的地代は合計金九三五万四、七九四円である。

(ロ) 株式会社寿本舗から一括収受した地代金二〇〇万円

<証拠略>によれば、昭和四一年二月一九日、株式会社寿本舗から同年三月分以降の地代として金二〇〇万円を一括収受したことが認められる。

(ハ) 細田清から一括収受した地代金四八万〇、八一五円

<証拠略>によれば、昭和四一年二月一五日、細田清から株式会社寿本舗の同年二月までの地代として金四八万〇、八一五円を一括収受したことが認められる。

B 岸チヨ外二名分 金二二七万六、一二八円

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金二二七万六、一二八円

別表三の一の<43>ないし<49>のうち、<43>、<45>、<47>ないし<49>は当事者間に争いがなく、その余は証拠欄記載の証拠によつて認めることができるから、その土地貸付けにかかる継続的地代は合計金二二七万六、一二八円である。

C 岸美代子分 金一四二万三、八〇三円

(イ) 土地貸付けにかかる継続的地代 金一四二万三、八〇三円

別表三の一の<50>ないし<55>のうち、<50>は原告らの自認額を下回るものであり、<53>、<54>は当事者間に争いがなく、その余は証拠欄記載の証拠によつて認めることができるから、その土地貸付けにかかる継続的地代は合計金一四二万三、八〇三円である。

(2)  家賃収入 金一、三四七万〇、三一六円

A 岸チヨ外四名分 金一、三四七万〇、三一六円(左記(イ)、(ロ)の合計額)

(イ) 神戸中央ビル(神戸市生田区多聞通二丁目二三)の貸室にかかる家賃および共益費収入 金一、一七六万一、四三六円

別表三の二の<1>、<3>ないし<23>は当事者間に争いがなく、その余は証拠欄記載の証拠によつて認めることができるから、その貸室にかかる家賃および共益費収入は合計金一、一七六万一、四三六円である。

(ロ) その他の貸家にかかる継続的家賃 金一七〇万八、八八〇円

別表三の三の<1>ないし<12>は当事者間に争いがないから、その貸家にかかる継続的家賃は合計金一七〇万八、八八〇円である。

(3)  権利金等収入 金二、四〇九万二、八〇〇円

A 岸チヨ外四名分 金二、二〇九万二、八〇〇円(左記(イ)ないし(ニ)の合計額)

(イ) 株式会社みどり美粧院から収受した権利金 金七四九万二、八〇〇円

<証拠略>によれば、株式会社みどり美粧院は、かねてから原告らおよび訴外人所有の神戸市生田区北長狭通一丁目二三番のうち宅地三一坪二合二勺を建物所有の目的で賃借していたが、神戸市の施行する土地区画整理事業のため、地上の木造建物を取り毀す必要が生じたところから、昭和四一年二月八日、存続期間を五〇年とする賃貸借契約公正証書を作成して右賃貸借契約を更新し、堅固な鉄筋コンクリート造建物を築造するについて、その承諾料として金七四九万二、八〇〇円を原告岸チヨに支払い、原告らおよび訴外人がこれを収受したこと、原告岸チヨは右金員を権利金として受領した旨の念書(<証拠略>)をみどり美粧院に差し入れたこと、みどり美粧院は右金員の支出を「借地権」として会計処理していることが認められるから、原告らおよび訴外人は、右金七四九万二、八〇〇円を契約終了時に返還する必要のない承諾料もしくは権利金として収受したものというべきである。原告らは、右金員は契約終了時に返還すべき敷金として交付を受けたものであると主張し、<証拠略>には右主張に副うものがあるが、前記各証拠に照らして信用しがたいし、他に原告らの右主張を認めて、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ロ) 有限会社ムーンライトから収受した権利金 金九七〇万円

<証拠略>によれば、有限会社ムーンライトは、かねてから原告らおよび訴外人所有の神戸市生田区北長狭通一丁目二四番の二、二三番のうち宅地二六坪二合三勺を建物所有を目的として賃借していたが、神戸市の施行する土地区画整理事業のため、地上の木造建物を取り毀す必要が生じたところから、昭和四一年五月二四日、存続期間を五〇年とする賃貸借契約公正証書を作成して、右賃貸借契約を更新し、堅固な鉄筋コンクリート造建物を築造するについて、その承諾料として金九七〇万円を原告岸チヨに支払い、原告らおよび訴外人がこれを収受したこと、原告岸チヨは右金員を権利金として受領した旨の念書(<証拠略>)をムーンライトに差し入れたことが認められるから、原告らおよび訴外人は、右金九七〇万円を契約終了時に返還する必要のない承諾料もしくは権利金として収受したものというべきである。原告らは、右金員は契約終了時に返還すべき敷金として交付を受けたものであると主張し、<証拠略>には右主張に副うものがあるが、前記各証拠に照らして信用しがたいし、他に原告らの右主張を認めて、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ハ) 株式会社寿本舗から収受した承諾料 金四二〇万円

<証拠略>によれば、株式会社寿本舗は、かねてから原告らおよび訴外人所有の神戸市生田区北長狭通一丁目一九番の一の宅地を賃借していたが、右賃借地上に店舗を新築するに当り、隣接する株式会社不二家との間口の境界が当時相互に入り組んでいたため、これを整理統合したこと、寿本舗の店舗建設地の一部は不二家が原告らおよび訴外人から借り入れていた借地であつたため、寿本舗は右整理統合および借地上に鉄筋ビルを建設するについて、地主である原告らおよび訴外人に対する承諾料として、金一二〇万円を昭和四一年二月一九日、金三〇〇万円を同年七月一六日原告岸チヨに支払つたことが認められる。

(ニ) 禹錫潤から収受した名義書替料 金七〇万円

<証拠略>によれば、原告らおよび訴外人が、昭和四一年二月、神戸生生田区北長狭通一丁目二一番地、喫茶店「鹿」の代表者禹錫潤から、賃貸借契約の名義書替料として金七〇万円を収受したことが認められる。

B 岸チヨ外二名分 金二〇万円

(イ) 橋本一夫から収受した承諾料 金二〇万円

<証拠略>によれば、原告岸チヨ、同岸和子、同岸美代子は、賃貸中の神戸市生田区北長狭通二丁目一番地、洋品店「カクテンヤ」経営者橋本一夫から、同人店舗の一部改築の承諾料として、金二〇万円を原告岸チヨが昭和四一年一一月二二日受領して、これを収受したことが認められる。

C 岸美代子分 金一八〇万円

(イ) 安藤年雄から収受した更新料 金一八〇万円

<証拠略>によれば、原告岸美代子は、賃貸中の神戸市生田区北長狭通一丁目一六番地、「安藤果物店」経営者安藤年雄から、その地上建物を取り毀し、永久建築物を新築するに際して土地賃貸借契約更新料または新築承諾料として、昭和四一年二月金五〇万円、同年六月金一〇〇万円、同年一〇月金三〇万円、合計金一八〇万円を収受したことが認められる。

2 必要経費 金八三二万一、八八七円(左記(1)ないし(5)の合計額)

(1) 公租公課 金三二三万〇、三五〇円

A 岸チヨ外四名分(神戸中央ビル分を含む) 金二六一万六、七三〇円

B 岸チヨ外二名分 金三七万三、七三〇円

C 岸美代子分 金二三万九、八九〇円

(2) 神戸中央ビル経費(公租公課を除く) 金四一八万三、三二一円

A 岸チヨ外四名分 金四一八万三、三二一円

(3) 手数料 金七〇万五、八九二円

A 岸チヨ外四名分 金七〇万五、八九二円

(4)  減価償却費 金八万二、三二四円

A 岸チヨ外四名分 金八万二、三二四円

(5)  雑費 金一二万円

A 岸チヨ外四名分 金一二万円

以上(1)ないし(5)の各事実は当事者間に争いがない。

原告らは、必要経費は、右(1)ないし(5)に限定されるものでなく、原告岸チヨが金六九〇万六、二二七円、同岸和子が金二二九万六、六六二円、同岸美代子が金三〇六万七、七四七円、同岸三郎が金二一三万四、八二七円、訴外人が金二一三万四、八二七円合計金一、六五四万〇、二九〇円であるとし、被告が裁決の際に必要経費として是認した公租公課金二四三万六、七五六円、神戸中央ビル経費(公租公課を含む)金四八六万六、四三三円、手数料金七〇万五、八九二円、減価償却費金八万二、三一四円、訴訟費用金八三二万八、八九五円、雑費金一二万円合計金一、六五四万〇、二九〇円を原告らおよび訴外人の持分に応じて各人別に算定した金額を主張するのであるが、被告が必要経費として主張する前記(1)ないし(5)の各事実は原告らの認めて争わないところであつて、被告の主張によれば、結局、右(1)については金一一万〇、四七二円、(4)については金一〇円被告が裁決の際に是認した金額を増額し、(2)、(3)、(5)については被告が裁決の際に是認した金額と同額となるわけであるから、原告らは、要するに、前記(1)ないし(5)の各必要経費のほかに、被告が裁決の際に必要経費として是認した訴訟費用金八三二万八、八九五円を本訴においても必要経費として是認すべきであると主張するものである。

ところで所得の存在およびその金額について課税庁が立証責任を負うことはいうまでもないから、必要経費についても課税庁に立証責任があると解されるが、必要経費の存在を主張、立証することは納税者にとつて有利かつ容易であるところからすると、公平の観念に照らし、通常の経費についてはともかく、訴訟費用のような特別の経費、すなわち、事実上不存在の推定が働くような特別の経費については、その存在を主張する納税者が右推定を破る程度の立証を要するものと解するのが相当である。しかるに原告らは、被告が、被告において裁決の際に必要経費として是認した訴訟費用金八三二万八、八九五円のうちには、支払われていないものもあり、支払われたものも必要経費として算入できない性質のものであると争つているのにかかわらず、右訴訟費用が支払われていること、そして右訴訟費用が不動産収入のための必要経費であることについて、立証をしないばかりでなく、その不存在の推定を破る程度の立証さえも、なんらしないのである。また、被告が裁決の際に右訴訟費用を必要経費として是認したからといつて、そのことをもつて、その存在を是認しなければならないものでもなければ、その不存在の推定を破るものでもない。したがつて、右訴訟費用金八三二万八、八九五円を必要経費として計上し得ないというべきである。

(二)  雑所得について

雑所得金額 金一万八、一八四円(左記1から2を控除した額)

1  貸付金利息収入 金二一万八、一八四円

岸チヨ分 金二一万八、一八四円

2  必要経費 金二〇万円

岸チヨ分 金二〇万円

以上の事実は当事者間に争いがない。

三  原告らおよび訴外人の各人別総所得金額について

前記不動産所得および雑所得について、原告らおよび訴外人の持分に応じて各人別総所得金額を算定すると、別表二記載のとおりである。すなわち、被告の主張額のとおりである。

そうすると、本件各更正処分(ただし、原告岸チヨについては裁決により一部取り消された後の額)は、いずれも適法であつて、なんら違法はなく、したがつて、また、本件各過少申告加算税賦課決定処分にも違法はないというべく、原告らの本訴各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井いく朗 谷口彰 上原理子)

別表一ないし三の三 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例